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6.原因 

多重人格ノート更新
イアン・ハッキング「記憶を書きかえる」要約第6弾。

中核となるのは
『そもそも“原因”とはなにか』
『原因/結果の連鎖についての観念が、いかに社会的・政治的に決定されるものなのか』
というすぐれて哲学・科学哲学的な論考なのですが、ややこしくなるのでそこらへんには直接触れないでおこうとしたところかえって分かり難くなってしまったような。

とりあえず、子供の多重人格治療の現状の一断面として読んでもらえればなと。

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6.原因 

・・・・多重人格障害(解離性同一性障害)の”原因”が、幼児・児童期に受けた虐待経験によるトラウマ及びそれに対する反応であるという定説、精神医学者たちの確信に対する留保。それらは必ずしも嘘ではないが原因論としては自己完結的である。結論や理論の枠組が先行して、あるべき”原因”を見出している。


『子供の多重人格者』という問題


「多重人格の診断の特質に関する一九八四年の古典的な論文で、彼(フィリップ・クーンズ)は『多重人格が芽ばえるのは幼児期のことであり、肉体的・性的虐待と関係があることが多い。』と書いている。この時点では、子供の多重人格者は見つかっていなかった....ただの一人も。しかし、捜索は続いた。(中略)理論が観察に先行したのだ。」

(実例)

1.9才の女児”ジェイン”

症状・問題行動
・粗野で攻撃的な振る舞い。
・食物(そのものに対する)アレルギーで、餓死寸前。
・孤独、引きこもり。

特徴・環境
・治療のため家から連れ出されると上記症状は消える。
・実の父は家庭を捨て、継父を迎えた現在の家庭でも相当の放置と残虐行為が存在。


セラピストの対処
・やがてジェインは悪事を働く『悪い姉』について語り始め、また自らそう名乗る別の声も出現する。
・別の人格を発達させた少女についての物語を読んで聞かせてやる。
・次のセッションでジェインはセラピストの話を正しいと言い、問題を起こしていたのは彼女の別人格である『悪い姉』なのだと認識する。
・じきに問題行動が消える。
※ 別人格の分離と具現化を助長することによる治療。


2.12才の女児“サリー・ブラウン“

症状・問題行動
・極端に粗野で攻撃的な振る舞い。
・統制不能な人格の交代その他の解離行動。

特徴・環境
・現在はブラウン家の養女であり、治療を受けさせているのも養父母。
・実の両親、及び実母の愛人たちから肉体的・性的虐待を受けていた。


セラピスト(ドノヴァンとマッキンタイア)の対処
・サリーが生活史的質問に対して「知らない」と答えると(つまりいわゆる解離性の健忘・意識喪失の徴候を示すと)、そのたび「まさか!」と答えてそれを無視した。その結果サリーはほとんどの質問に答えられるようになった。
・養母と共同して、サリーに投げかけられる言葉の全てから(複雑な生い立ちがもたらす矛盾が表面化するような)多義的な要素を極力配して、サリー自身にもはっきりした言葉ではっきりと答えることを習慣づけさせた。
・間も無くサリーは解離出来なくなった。
※ 解離をいっさい助長しないことによる治療、障害の抑制。

(ドノバンとマッキンタイアの主張)
・子供と大人は違う。
・通常の、大人に対してなされるような、解離を認める可能性を内包した診断過程自体が子供の解離を強く促進する。
・子供が持っている大人とは比べ物にならない可塑性・成長力・学習能力の高さに留意し、また期待し依存することによって、(”交代人格”という形での)解離状態のある程度の固定を前提とした大人に対するものとは違うアプローチがあり得るし、またなされるべきである。


サリー・ブラウンの例が意味するもの。

可能性1 子供の多重人格は大人の多重人格と同一の障害の、その萌芽的な状態である。


「一つは、子供の多重人格の治療は、非常に簡単である。それが潜行してしまったとき、成人期に病理的なものになる。(中略)という考えだ。」


可能性2 子供の多重人格はそれ自体独立した障害である。

「何人かの子供で観察された多重人格を引き合いに出しただけで、その障害が、大人を悩ませているのと全く同じ病気の縮小版だと結論付けるわけにはいかない。」
「子供の多重人格とは、それ自体独立した障害なのであり、幼少時のトラウマが大人の多重人格を引き起こすという説への証拠にはならない、ということになる。」

(注意)
・子供の多重人格の”捜索”自体が、上記「定説」の証拠を求める傾向を強く持ったセラピストたちに主に担われていた。
・そしてそこから当初大人と同質のアプローチによる治療が行なわれたが、ドノバンとマッキンタイアのような人たちがそれに異議を唱え、また『大人の縮小版』という子供の症状イメージの見直しも続いて行われた為、「定説」の証拠としての子供の多重人格の意義付けが怪しくなっているというそういう話。
・ちょっと分かり難いと思うので次回7.測定編で補完します。


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7.測定 

多重人格ノート更新
前回に続いて割りと業界内部の話で、ちょっと地味ですね。

かなり批判的な論旨ですが、注意してもらいたいのは筆者(イアン・ハッキング)は決して多重人格という現象の実在を疑っているわけでも、多重人格障害や多くの場合その重要な原因とされる幼児虐待の苦痛や重大性を軽く見ているわけではないということ。
逆にだからこそ誤解や疑念を抱かれるような粗雑なやり方はまずいという親心と、そして勿論科学者・哲学者としての本分から来る関心でこういうことを書いているわけです。

次回からまたもう少し一般的関心に近いだろう内容になる予定。

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7.測定 

・・・・多重人格の”原因”(前章)同様、この現象の客観化の手段であるはずの測定行為についても、多重人格の専門医たちのやり方は循環的で自己完結的である。前提が結論に、背景となる枠組自体がその検証に含まれてしまっている。
併せて「科学的知識」の対象としての多重人格は、未だに十分に確立されているとは言えない状態にある。

連続体仮説

多重人格は個別の突発的な障害ではなく、全ての人にそれぞれの強弱で見出し得る「解離傾向」(解離しやすさの度合い)が、解離を誘発するような刺激(幼児虐待など)によって極端に強められた形で表現されてしまったものであるという考え方。


「多くの文献が、この能力(解離能力)の段階の程度は生来のもの、遺伝的なものということを示唆している。
この示唆には二つの重要な要素が含まれている。第一に、解離には程度の差がある、つまり、解離傾向がもっとも強い者を一方の端に、解離傾向がもっとも弱いものを他端というように、すべての人に順番をつけて直線状に並べることが出来る線形的なものである。」(
6.原因の章より)


「パットナムは著書の中で、『解離の適応機能(注)という概念の中核をなすのは、解離現象が連続体上に存在するという観念である』と、書いている。」
(注)”生来的に解離傾向の強い子供が、トラウマへの対処の装置として解離を利用する”という現象、考え。


(根拠)パットナムによる


1.催眠術へのかかりやすさが連続体として認識可能なのはよく知られたことである。そして催眠術へのかかりやすさと多重人格へのなりやすさとの間には、経験的に強い相関が想定されている。従って多重人格へのなりやすさ=解離傾向も催眠術へのかかりやすさと同様に連続体を形成していると仮定出来る。
2.<解離経験尺度>(DES)についての研究結果。


1.については催眠術の専門家から、過度の一般化だとの強い批判がある。
2.については次に。


解離経験尺度(DES)


バーンスタインとパットナムが一九八六年に発表した、解離傾向を測定する為の自己回答型のテスト。
今日まで広く使われている。


特徴
・それぞれの質問に対して自分がどれだけ当てはまるか、%で答える方式。
・あからさまに「病的な」状態だけでなく、いわゆる白昼夢や放心・熱中状態など健常者にも普通に現れる状態についての質問も含めて構成されている。


DESによる”研究”結果
・解離傾向が連続的であることが分かった。
・このテストで病的とみなされる「30点」以上を示す回答の多さから推測すると、北米での多重人格の発生率は2%以上、大学生に限定すれば5%かそれ以上と考えられる。


批判
・質問の意図が見え透いていて、回答者が見せたいように自分を見せることが出来る。
・質問項目の設定自体が、解離傾向の連続性を導き出すように作られている。(例えばより厳格に病的な項目だけで構成すれば、直ぐにも治療の必要があるようなレベルの人しかマークせずに結果は非連続になるだろう。)
・DESの結果から推測された多重人格の発生率は、実際の精神科医たちの経験からすると余りに非現実的に高率である。
・各種の中立的な研究結果には、DESの得点と被験者の実際にかかっている疾病に含まれている「解離」の要素との間には相関が見られないという結果が多数ある。
・統計学的にあらゆる観点から見て検証が不十分である。(詳細省く)



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