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『飛狐外伝』 お仕事モードの金庸先生(1) 

飛狐外伝〈1〉風雨追跡行飛狐外伝〈1〉風雨追跡行
(2001/09)
岡崎 由美、金 庸 他

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『雪山飛狐』編(1)(2)
更に参考、『金庸先生の執筆環境』


『飛狐外伝』の基本性格

まず基礎知識の確認。

・’60年発表。’57年に書かれた『雪山飛狐』”前伝”(3巻作者あとがきより)。『雪山』主人公胡斐の成長過程を描写。

・上記『雪山飛狐』も掲載されたメジャー紙「大公報」から独立して、自ら主宰する「明報」創刊後の、『神雕剣侠』(’59)に続く第2弾作品。(『金庸先生の執筆環境』

・実際に掲載されたのは新聞ではなく、「武侠と歴史」という小説雑誌。それにかなり手を入れて(主に削除)、他の新聞小説作品と文体等を揃えたのが現在読める単行本版。

・同じくあとがきによると、”武”と”侠”の内、意識的に”侠”の面を追求してみることがメインの狙いであったとのこと。(後述)

・・・・基本的な印象としてはやはり『雪山飛狐』と同じで、申し分なく面白いけれど掴み所がない、バイオグラフィ全体の中で見るとあっても無くてもいいような気がする、というもの。
勿論『外伝』の場合は『雪山』の”前伝”である、主人公胡斐の”若き日の姿”が見られるという意義が最初から折り込み済みなわけですが、”若き日”とは言っても『雪山』の胡斐も十分に若い、大したタイムラグもギャップ感もあるわけではないので、正直有り難味は薄いです。(笑)


『飛狐外伝』の特徴

内容的にはともかく、主に構成面とそこから来る印象には、『飛狐外伝』にはそれなりに特徴的なものがあると思います。

1.続編/シリーズ系作品としての特徴

時系列が逆なのですんなり「続編」と言えないのがめんどくさいんですが(笑)、ともかく、『神雕剣侠』ともある意味共通する特徴。

具体的には”前作”『雪山飛狐』の余韻、及び既に世界観が存在・共有されていることから可能になる、説明も前振りもなしに、いきなり本題に入ってぐいぐい進むスピード感のようなもの。
そのオープニングのスピード感に導かれて、あるいは単刀直入感を基本として、その後のストーリーも語られる。

2.コンパクト仕様の金庸

前段「基本性格」で述べたように、単行本化に当たって金庸はかなりバサバサと、雑誌連載用に(新聞小説形態と比べて)冗長になっていた部分を削ぎ落とす作業をやったそうです。
そのせいと、それから1.で述べたスピード感の恩恵の相乗効果でしょう、『飛狐外伝』は何と言うか、”核”だけが剥き出しにされて並べられているような、ある意味無雑作な凝縮感というものが全編に感じられます。

元々「息もつかせぬ怒涛の展開」「名場面の連打連打」みたいなものは金庸作品の定評のあるところなんですが、それでも『射雕英雄伝』を筆頭とする他の作品には、それなりの起伏なり装飾性なり、構成美を意識したようなものがそれぞれに見られると思います。
しかし『飛狐外伝』にはそういうものはほとんど感じられません。別に破綻しているわけでも流れが切れるわけでもありませんが、何かもっと無作為に、時間通り単純にエピソードが並べられているような印象があります。

・・・・そうですね、金庸作品一般が「満漢全席」(岡崎由美氏)だとすれば、『飛狐外伝』はその”弁当”版という感じでしょうか(笑)。同じ質の料理を、ただし出す段取りとかはさほど気にせずにともあれ召し上がれと品数も落として、四角い弁当箱の中にとにかく詰めましたという感じ。
メインの商品にはなれないけど美味しくて食べやすい。ちょっとくらい冷めてても安心?!(笑)


(2)につづく。


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